東京地方裁判所 平成6年(ワ)18309号 判決 1998年5月15日
原告 甲1
原告 甲2
原告 甲3
右三名訴訟代理人弁護士
渡邊洋一郎
同
渡辺潤
同
松田生朗
被告
株式会社東京三菱銀行
右代表者代表取締役
岸曉
右訴訟代理人弁護士
熊谷信太郎
被告
明治生命保険相互会社
右代表者代表取締役
金子亮太郎
右訴訟代理人弁護士
田邊雅延
同
佐藤道雄
同
市野澤要治
被告
日本生命保険相互会社
右代表者代表取締役
伊藤助成
右訴訟代理人弁護士
坂本秀文
同
山下孝之
同
長谷川宅司
同
千森秀郎
同
織田貴昭
同
嶋原誠逸
右坂本秀文訴訟復代理人弁護士
磯田光男
被告
株式会社ザイタック
右代表者代表取締役
桜庭冨雄
右訴訟代理人弁護士
鳥飼重和
同
森山満
主文
一 被告明治生命保険相互会社は、原告甲1に対し金一億四四四九万一八七六円、同甲2に対し金一億二六八一万三四〇六円及び同甲3に対し金一億一三六四万五三一四円、並びに右各金員に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日本生命保険相互会社は、原告甲1に対し金一億一九五四万三三二八円、同甲2に対し金一億〇五〇四万九六四三円及び同甲3に対し金九三六〇万二六五四円、並びに右各金員に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告明治生命保険相互会社及び同日本生命保険相互会社に対するその余の主位的請求及び予備的請求並びに被告株式会社東京三菱銀行及び同株式会社ザイタックに対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告らと被告明治生命保険相互会社との間においては、原告らに生じた費用を二分し、その一を同被告の、その余を各自の負担とし、原告らと被告日本生命保険相互会社との間においては、原告らに生じた費用を五分し、その二を同被告の、その余を各自の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においては、全部原告らの負担とする。
五 この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。ただし、被告明治生命保険相互会社が、原告甲1に対し金五〇〇〇万円、同甲2に対し金四〇〇〇万円若しくは同甲3に対し金三〇〇〇万円、又は被告日本生命保険相互会社が、原告甲1に対し金四〇〇〇万円、同甲2に対し金三〇〇〇万円若しくは同甲3に対し金三〇〇〇万円の各担保を供するときは、担保を供した被告は、その原告からの右仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一 請求
一 主位的請求
被告らは、連帯して、原告甲1に対し二億八二七一万五六七八円、同甲2に対し二億五四九三万五九六三円、及び同甲3に対し二億二八八三万四八七六円、並びに右各金員に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 予備的請求
1 被告明治生命は、原告甲1に対し一億六六三三万九四一三円、同甲2に対し一億四九七六万二〇五五円、及び同甲3に対し一億三三七三万九一〇二円、並びに右各金員に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告日本生命は、原告甲1に対し一億〇九〇一万一三七七円、同甲2に対し九七九八万三二八〇円、及び同甲3に対し八七八三万三六五八円、並びに右各金員に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告ザイタックから相続税対策(相続財産の評価引下げによる節税対策又は相続税支払のための資金準備をいう。)の立案を受け、同株式会社東京三菱銀行(被告銀行)から借り入れ、保険料を支払って同明治生命及び同日本生命(被告生保ら)と変額保険契約を締結した原告らが、主位的に、被告らに対し、従業員から違法な勧誘を受けたと主張し、融資金と解約返戻金との差額等につき、共同不法行為の損害賠償請求をし、予備的に、被告生保らに対し、保険料を特別勘定で運用するに際しての善管注意義務違反を主張し、融資金と解約返戻金との差額につき、損害賠償請求をした事案である。
一 前提となる事実
1 原告らは、平成三年二月一日、被告明治生命との間で別紙2記載保険目録一のとおり(本件変額保険契約一)、及び被告日本生命との間で同二のとおり(本件変額保険契約二。以上併せて「本件各変額保険契約」)、変額保険契約を各締結し、同年一月一一日、本件変額保険契約一の保険料(一時払)として、二億六四六一万六〇八八円(原告甲1)、二億三〇四六万二五八八円(同甲2)及び二億〇七四八万一〇八八円(同甲3)を、本件変額保険契約二の保険料(一時払)として、二億五一三二万一八一〇円(原告甲1)、二億一七九一万五七四五円(同甲2)及び一億九四〇四万一六一七円(同甲3)を各支払い、本件変額保険契約二の保険料(年払)として、同三年から同六年にかけて、計四三六万四八八八円(原告甲1)、四一九万〇六二八円(同甲2)及び四二六万二一一六円(同甲3)を各支払った(丙一の一の一ないし一二、一の二の一ないし一二、一の三の一ないし一二、丁五の一ないし一二、弁論の全趣旨。本件変額保険契約一締結の事実は原告らと被告明治生命との間で争いなく、本件変額保険契約二締結の事実は、原告らと被告日本生命との間で争いない。別紙1一覧表参照)。
2 原告らは、被告銀行から、同三年一月一一日、五億九〇〇〇万円(原告甲1)、五億二〇〇〇万円(同甲2)及び四億六五〇〇万円(同甲3)の各融資(利率年8.1パーセント。本件融資)、四五〇〇万円(原告甲1、同四年六月二六日)、四〇〇〇万円(同甲2、同年八月一〇日)、及び三五〇〇万円(同甲3、同日)の各融資(追加融資一)、同五年七月三〇日四一〇〇万円(原告甲1)及び三六〇〇万円(同甲2)、並びに同年八月一一日三二〇〇万円(同甲3)の各融資(追加融資二。以上を併せて、「本件融資等」)を受け、同被告に対し、印紙代として、同三年一月一一日各二〇万円(原告甲1及び同甲2)及び一〇万円(同甲3)、同四年六月二六日二万円(原告甲1)、同年八月一〇日各二万円(同甲2及び同甲3)、同五年七月三〇日各二万円(原告甲1及び同甲2)及び同年八月一一日二万円(同甲3)を各支払い、本件融資の利息として、同三年二月二六日から同六年五月二六日まで、計一億二四二四万一四五七円(原告甲1)、同一億〇九五〇万〇九四一円(同甲2)及び同九五四九万四二五六円(同甲3)を各支払い、追加融資一の利息として、計四四二万四〇六一円(原告甲1、同四年七月二七日から同六年五月二六日まで)、同三六二万五四一二円(同甲2、同四年九月二八日から同六年五月二六日まで)及び同三一七万二二三五円(同甲3、同期間)を各支払い、追加融資二の利息として、計一四八万八九〇二円(原告甲1、同五年八月二六日から同六年五月二六日まで)、同一三〇万七三三二円(同甲2、同期間)及び同一一〇万五〇八一円(同五年九月二七日から同六年五月二六日まで)を各支払った(乙九、一九、二七、四三、五三、六一、七六、八六、九四、弁論の全趣旨。原告らと被告銀行との間で争いない。別紙1一覧表参照)。
3 原告らは、同三年一月一一日、ダイヤモンド信用保証株式会社(保証会社)との間で、本件融資上の債務についての保証委託契約(本件保証委託契約)を各締結し、同日、保証料として、七七五万〇八七二円(原告甲1)、六八三万四九九二円(同甲2)及び六一一万五三七二円(同甲3)を各支払い、追加融資一の追加保証料として、同四年六月二六日八九万三四七〇円(原告甲1)、同四年八月一一日、七九万五三四〇円(同甲2)及び六九万七二一〇円(同甲3)を、各支払い、追加融資二の追加保証料として、同五年七月三〇日、八一万四九六六円(原告甲1)及び七一万六八三六円(同甲2)、同年八月一一日六三万八三三二円(同甲3)を、各支払った(乙一二、四六、七八、弁論の全趣旨。原告らと被告銀行との間で争いない。別紙1一覧表参照)。
4 原告らは、同三年一月一一日、保証会社との間で、本件保証委託契約に基づく求償債務を担保するため、別紙3記載物件目録一及び二の土地及び建物(本件土地、本件建物)につき、根抵当権設定契約(本件根抵当権設定契約)を各締結し、同日、保証会社に対し、登記費用として、各四五二万七九〇〇円を支払った(乙一〇の一、四四の一、七九の一、弁論の全趣旨。原告らと被告銀行との間で争いない。)。
5 原告らは、同六年五月三〇日本件変額保険契約一を、同年六月八日本件変額保険契約二を、それぞれ解約する旨意思表示し、解約返戻金として、原告甲1につき、同月一三日、被告明治生命から一億九三五五万三九五八円、同日本生命から二億〇七〇九万五二五二円の各支払を受け、同月一〇日、原告甲2につき、被告明治生命から一億六八六〇万一〇八六円、同日本生命から一億七九六五万三五七九円の各支払を受け、原告甲3につき、被告明治生命から一億五一〇四万六二四一円、同日本生命から一億五九三八万〇九九九円の各支払を受け(別紙1一覧表参照)、被告銀行に対し、本件融資等に基づく借入債務の弁済として右各金員を支払った(甲六一、原告甲3、弁論の全趣旨。本件変額保険契約一の解約に関する事実は原告らと被告明治生命との間で争いなく、本件変額保険契約二の解約に関する事実は、原告らと被告日本生命との間で争いない。)。
6 乙川は被告明治生命代理社社員、丙山は同日本生命千代田支社日比谷営業部長、藤田和彦は同銀行岩本町支店行員、及び桜庭冨雄は、同ザイタックの代表取締役である(乙一〇四、丙五、丁一七、戊二二、証人藤田、同乙川、同丙山、被告ザイタック代表者。乙川に関する事実は原告らと被告明治生命との間で、丙山に関する事実は原告らと被告日本生命との間で、藤田に関する事実は原告らと被告銀行との間で、及び桜庭に関する事実は原告らと被告ザイタックとの間で、それぞれ争いない。)。
二 原告の主張
1 争点1(不法行為)
(一) 被告明治生命
乙川は、同二年一一月一六日、原告らに対し、シミュレーション(原告ら及びその相続人を被保険者とし、保険金額三億円又は一億五〇〇〇万円とした変額保険への加入、運用利率九パーセント及び融資金利7.6パーセントを前提として、節税効果を計算したもの。)を示した上、現在の運用実績は九パーセントであり、近い将来九パーセントを超えると見込まれ、銀行借入による変額保険への加入により、相続税支払のための資金が必ず準備できる外、相続財産の評価額を減少させ、実際の財産価値との差額(含み益)が見込めると述べ、同年一二月一九日、シミュレーション(運用利率九パーセント及び融資金利7.6パーセントを前提とし、自身の死亡による相続(一次相続)発生を一〇年後、原告らの配偶者の死亡による相続(二次相続)発生を一二年後とした場合の節税効果を計算したもの。)を示した上、変額保険に加入した場合、一次相続及び二次相続発生時において、多額の相続税対策の効果が見込める上、一次相続発生前に二次相続が発生した場合、多額の保険給付金の支払を受けるという効果もあると述べ、本件変額保険契約一を勧誘した。
乙川は、右勧誘の際、変額保険の仕組みや当時の運用実績について正確に説明せず、変額保険の危険性、特に、定額保険と異なり、特別勘定の運用実績により、保険金及び解約返戻金(保険給付金)額が変動し、一時払保険料額を下回る危険性があることを説明すべきであり、また、保険給付金で借入債務を弁済できない危険性を説明すべきであったにもかかわらず、これを怠った。
(二) 被告日本生命
丙山は、同日、シミュレーション(原告ら及びその相続人を被保険者とし、保険金額一億五〇〇〇万円とした変額保険への加入、運用利率九パーセント及び融資金利8.1パーセントを前提とし、うち原告らの子を被保険者とする変額保険を頭金活用年払型とし、一次相続発生を一〇年後、二次相続発生を一二年後とした場合の節税効果を計算したもの。)を示して、変額保険加入後の相続税額及び資金収支を説明し、一次相続及び二次相続発生において、多額の節税効果が見込める上、頭金活用年払変額保険においては、保険料の七〇パーセント相当額から保険金額の二パーセント相当額を控除した金額が相続財産評価額となり、評価額を減少させる効果も期待できると述べ、本件変額保険契約二を勧誘した。
丙山は、右勧誘の際、変額保険の仕組みや危険性、当時の運用実績及び変額保険による相続税対策の危険性を説明すべきであったにもかかわらず、これを怠った。
(三) 被告銀行
藤田は、原告らに対し、同年六月一一日及び同年七月一〇日、銀行借入による変額保険加入が相続税対策として有効であると説明して勧誘し、同年一一月一六日、乙川とともに、変額保険の運用実績九パーセント以上を確保でき、加入によって、相続税支払のための資金準備が可能となり、相続財産の評価額を減少させ得ると述べて、勧誘した。
右勧誘態様、並びに変額保険契約、及びこれと融資契約等を組み合せた相続税対策の仕組みに照らせば、本件融資等は、本件各変額保険契約の不可欠の前提であり、藤田は、右勧誘の際、変額保険の仕組みや危険性、当時の運用実績及び変額保険による相続税対策の危険性を説明すべきであったにもかかわらず、これを怠った。
(四) 被告ザイタック
(1) 原告らは、被告ザイタックに対し、同年七月一六日、原告らの相続税対策の立案を委任し、同三年四月から同五年一一月までの間、その対価として、計四〇〇万円を支払った。
(2) 桜庭は、同二年九月中旬ころから同年一〇月初めころまでの間、原告甲3に対し、一次相続発生後の相続税額を計算した表を示し、一次相続及び二次相続発生時における納税資金が不足しており、変額保険に加入する以外の方法では右資金を準備することはできないと述べた上、同月ころ、自分も変額保険に加入していると告げて変額保険への加入を勧誘し、同月下旬ころ、原告らの所有不動産につき、今後一〇年間の資金収支を計算した表を示し、相続税の支払準備がされておらず、一〇年後も、納税資金が増加する見込みはないと述べた。
桜庭は、右勧誘の際、変額保険による相続税対策の効果や危険性を説明すべきであったにもかかわらず、これを怠った。
(五) 損害
原告らは、乙川、丙山、藤田及び桜庭の不法行為により、融資金と解約返戻金との差額、年払保険料及び慰籍料(各三〇〇万円)の合計額相当の損害を被った。その額は、原告甲1につき二億八二七一万五六七八円、同甲2につき二億五四九三万五九六三円、及び同甲3につき二億二八八三万四八七六円である。
2 争点2(予備的主張)
(一) 乙川及び丙山は、原告らに対し、銀行借入により本件各変額保険の保険料を払い込み、相続時、保険給付金をもって借入債務を弁済する旨勧誘しており、被告生保らは、特別勘定において、融資金利を上回る運用利率が確保できるよう投資すべき注意義務を負担するにもかかわらず、同三年度の特別勘定の運用において、七三四億八七〇〇万円(被告明治生命)、及び一四八七億四四〇〇万円(同日本生命)の損失をそれぞれ生じさせ、本件各変額保険契約に基づく善管注意義務に違反した。
(二) 原告らは、被告生保らの右債務不履行により、融資金と解約返戻金額との差額を下回らない損害を被ったところ、払込保険料に対する解約返戻金の割合(別紙1一覧表参照)に基づいて按分し、原告甲1につき、被告明治生命に対し一億六六三三万九四一三円、同日本生命に対し一億〇九〇一万一三七七円の各支払、原告甲2につき、被告明治生命に対し一億四九七六万二〇五五円、同日本生命に対し九七九八万三二八〇円の各支払、及び原告甲3につき、被告明治生命に対し一億三三七三万九一〇二円、同日本生命に対し八七八三万三六五八円の各支払を、それぞれ求める。
三 被告明治生命の反論
乙川は、同二年六月一八日、原告甲3に対し、勧誘資料及びパンフレットを示した上、変額保険に関し、保険契約者から支払われた保険料につき、特別勘定を設け、株式や公社債に投資して運用し、運用実績により保険給付金額が変動する(ただし、死亡保険金は、基本保険金額が最低保証される。)と説明し、パンフレットの運用実績例表を基に、運用実績〇パーセント、4.5パーセント及び九パーセントでの各保険給付金額を示し、また、被相続人が契約者兼被保険者として変額保険に加入した場合、相続発生時には、死亡保険金が納税資金として準備でき、被相続人を契約者、相続人を被保険者として変額保険に加入した場合、相続発生時には、一時払保険料額が相続財産評価額となり、融資金利分だけ評価額を減少させる外、運用実績がよければ、実際の財産価値との差額(含み益)が期待でき、相続税対策効果があると述べた。
乙川は、同年一一月一六日、原告らに対し、シミュレーション、勧誘資料及びパンフレットを示し、右同様に、変額保険の仕組みや危険性、相続税対策効果を説明した上、シミュレーションは運用実績九パーセントを仮定しているが、実際の運用実績は上下すること、及び相続税対策として変額保険に加入するのであり、シミュレーションでは、短期間での解約は想定していないと説明した。
四 被告日本生命の反論
丙山は、同年一二月七日、原告らに対し、勧誘資料、パンフレット及び設計書を示した上、変額保険においては、保険料につき特別勘定を設け、上場株式や公社債等の有価証券に投資して運用し、運用実績によって、高い収益が期待できる一方、契約者が株価低下等のリスクを負担すると述べ、パンフレット及び設計書の運用実績例表を基に、運用実績〇パーセント、4.5パーセント及び九パーセントでの各保険給付金額を説明し、同月一九日、契約のしおり及びシミュレーションを示した上、変額保険の仕組みにつき、特別勘定を設け、有価証券を中心として運用し、運用実績によって高い収益を得ることができる反面、株価や為替の変動等によるリスクも増大すると説明した。
五 被告銀行の反論
1 被告銀行行員は、同年六月一一日、原告甲3に対し、原告らの経営する甲金網株式会社(甲金網)株式の相続税対策として、銀行借入により、甲金網の純資産額を一〇億円まで増加させて大会社とし、類似業種比準方式の適用により、株価評価額を減少させ、同社株式を原告らの子へ譲渡して早期の事業承継を図り、また、原告甲1外五名所有の本件土地の相続税対策として、不動産管理会社を設立し、本件建物を同管理会社に譲渡して、借地権を設定することにより、相続財産評価額の減少を図り、さらに、その他の土地相続については、生命保険を利用した相続税対策を行うと説明した。
同年七月一〇日、藤田は、原告らに対し、勧誘資料(右各相続税対策について記載した、相続対策プランと題するもの。「相続対策プラン」)を示した上、甲金網の株式及び本件土地の相続税対策を説明し、同月三〇日、被告銀行から甲金網に対し、純資産額増加のため、二億円の融資が実行され、同年一一月二九日、甲金網の株式譲渡契約が締結され、同年一二月一四日、不動産管理会社(甲産業有限会社)が設立された。
藤田は、同年一一月二九日、本件融資、本件保証委託契約及び根抵当権設定契約の内容とこれに付随する諸手続を説明し、同三年一月一〇日、原告らから各契約書及び附属書類に署名押印を受け、同月一一日、本件融資を実行した。
2 変額保険契約と一時払保険料支払のための融資契約とは、法的には、全く別個独立の契約である上、藤田らにおいて、原告に対し、被告銀行の融資によって変額保険に加入するよう求めたこともなく、本件融資等は、本件各変額保険契約の前提となるものではない。
六 被告ザイタックの反論
桜庭は、同二年七月一六日、原告らから、甲金網の株式及び本件土地の相続税対策に関する企画業務を行うよう(準)委任され、同年一一月二日、原告甲3に対し、右相続税対策に関し、甲金網の純資産額を増加させて大会社とし、相続財産評価につき類似業種比準方式を適用させ、評価額の減少を図る外、不動産管理会社を設立し、同管理会社に対し、本件建物を譲渡して、借地権を設定し、相続財産評価額を減少させる方法を説明し、同月二九日、原告らに対し、右各相続税対策の効果を試算したシミュレーションを示し、原告らをして、甲金網の株式譲渡契約を締結させ、同年一二月一四日、不動産管理会社を設立させ、同月二一日、同管理会社に本件建物を譲渡させて、借地権を設定させた。
第三 当裁判所の判断
一 変額保険の仕組み
1 変額保険は、保険会社において、定額保険についての資産を管理するための勘定(一般勘定)とは別に、保険契約者の支払う保険料のうち、経費等や、死亡保険金等の支払準備金を控除した部分につき、特別勘定を設け、これを国内株式等の有価証券に投資し、その運用実績に応じて、保険給付金額が変動する仕組みの生命保険であり、大蔵省により認可され、昭和六一年一〇月から販売が開始された。
変額保険においては、死亡保険金や高度障害保険金につき、基本保険金額の支払が保証されるものの、解約返戻金や満期返戻金については、最低保証はなく、特別勘定の運用実績に応じて変動し、支払保険料を下回る可能性もあり、同保険の契約者は、特別勘定の資産運用により、高い収益が望め、インフレ・ヘッジ機能を期待できる一方で、基本保険金額の最低保証を除いては、株価や為替の変動等による投資リスクを負う。
(公知の事実)
2 変額保険は、投資運用リスクを保険契約者が負担する点において、定額保険と異なるため、保険募集の取締に関する法律による規制の外、社団法人生命保険協会による自主規制として、同協会実施の販売資格試験に合格し、登録された者でなければ、変額保険を募集できず、募集に際しては、保険金額の増減と基本保険金額の関係、資産運用方針及び投資対象、特別勘定資産の評価方法、運用実績〇パーセント、4.5パーセント及び九パーセントの場合についての保険金額試算例並びに解約返戻金額及び満期保険金額に最低保証がないことにつき、必ず顧客に確認を求めることとされ、昭和六一年七月一〇日付け蔵銀一九三三号「変額保険募集上の留意事項について」と「題する大蔵省通達により、将来の運用成績につき断定的判断を提供すること、特別勘定の運用成績につき、募集人が恣意に過去の特定期間を取り上げ、将来を予測する行為、保険金額(死亡保険金については最低保障を上回る金額)あるいは解約返戻金額を保証する行為を禁止する行政指導がされた(公知の事実)。
3 変額保険においては、保険契約者を被保険者として契約する場合、同人についての相続開始により、死亡保険金が支払われ、相続税の支払及び借入金の返済に充当された上、借入金が債務として相続財産から控除され、保険契約者と被保険者を異にする場合、保険契約者についての相続開始により、生命保険契約に関する権利が相続財産となり、その相続税課税標準の評価額は解約返戻金が一時払保険料を上回る場合においても一時払保険料相当額とされ、借入元利金は債務として相続財産から控除され、相続税額の減少を期待できる外、解約返戻金により相続税の支払及び借入金の返済に充当できるなどの点において、相続税対策の効果を有する(甲二九、三〇、弁論の全趣旨)。
二 変額保険契約の締結に至る経緯
1 原告甲1(大正九年七月一九日生)、同甲2(同一二年一一月五日生)及び同甲3(昭和二年九月八日生)は、東京都立第一商業学校等を卒業し、甲金網に入社し、以後、同社の経営等に従事しており、平成二年当時、原告甲1において投資信託取引の経験がある外、株式等を保有したことはない(甲六一、六三、六四、原告甲1、同甲2、同甲3)。
2 藤田は、同年五月、被告銀行岩本町支店の開設間もないころ、事前に面会の約束を取り付けることなく、いわゆる飛び込みで、甲金網を訪問し、同社の浅野経理課長との面談により、原告らが相続税対策に興味を有していることを聞き、同課長に対し、役員についての相続開始に伴う節税対策として、同社の株式、役員の個人所有地、資産の別法人への移転の方法等について説明し、後に興味を抱いた原告甲3の求めにより、再度同社を訪問し、同原告から、地価の高騰により相続税が巨額となり、事業の承継、相続対策に苦慮していること、取引のある被告銀行大伝馬町支店を通じて相談したことがあること、主取引銀行である富士銀行にも相続税対策を相談中であることなどを聴取し、同原告に対し、甲金網の株式を次世代に譲渡すること、本件土地及び本件建物を活用すること、銀行及び会計事務所と共同して対策を立てること、などを内容とする対策について説明した。原告甲3は、同年六月一一日、藤田から、相続税額を試算した表を示され、今後の地価上昇を考慮すると、実際の相続税額は同試算額より高額になると告げられ、同人により紹介された渡辺稔(被告銀行本部個人財務室次長)からは、甲金網の純資産額を増加させて大会社とし、類似業種比準方式の適用により株価評価額を減少させ、不動産管理会社を設立し、原告甲1外六名所有の本件建物を同社に譲渡して同社のために借地権を設定することにより相続財産評価額を減少させ、その他の土地について生命保険を利用する方法による相続税対策の提案を受けた。
(甲五二、六一、乙一〇四、証人藤田、原告甲3)
3 乙川は、藤田の紹介により、同月一八日、原告甲3に対し、パンフレット及び勧誘資料を示し、原告らがそれぞれ保険契約者及び被保険者となって一時払変額保険に加入し、保険料は手持ちの不動産を担保にして借り入れ、その利息も借り入れることにより、手持ちの現金を使う必要がなく、一次相続発生時、支払われる保険金を相続税の納税原資にし、家族を被保険者とする保険については一時払保険料が相続財産として評価され、借入金の元利合計が債務控除を受け、借入金の利息部分について相続財産評価額が低下して節税になること、変額保険の運用実績九パーセントの場合の解約返戻金の額、一次相続発生後生命保険に関する権利及び借入債務を配偶者が相続すれば、二次相続発生時にも、一次相続発生時と同様の効果があることを説明し、変額保険について、保険料を通常の保険とは別に特別勘定を設け、大半を株式や債券で運用し、死亡保険金額は基本保険金額を最低保証されるものの、運用実績に応じて保険給付金が変動する保険であることを説明した。これに対し、同原告から、変額保険の運用がうまく行くかどうかについて懸念を表明され、乙川は、変額保険がインフレに対応できる保険として開発されたもので、長い目で見れば普通の保険より高い運用利益が得られなければ意味がないと述べたものの、当時の被告明治生命の変額保険の運用実績が後記のとおり九パーセントを下回っている事実については、明らかにしなかった。乙川は、同月二五日、藤田と同道して原告甲3を訪問し、シミュレーション(原告ら及びその相続人を被保険者とし、保険金額三億円又は一億五〇〇〇万円とした変額保険への加入、運用利率九パーセント及び融資金利7.6パーセントを前提として、節税効果を計算したもの)を交付し、その内容について説明した。
(甲二の一、六の一、六一、丙五、六、証人乙川、原告甲3、弁論の全趣旨)
4 藤田は、同二年七月六日ころ、甲金網を訪問し、同社の株式評価額を試算した株価試算書に基づき、原告甲3に対し、株式の評価額について説明し、事業の承継については税理士に相談するよう勧め、同原告から、その紹介を依頼され、同月一〇日ころ、早川課長と共に同社を訪問し、「甲金網株式会社様相続対策プラン」と題する書面(前記株価試算書の添付されたもの。甲一)に基づき、原告らを含む原告らの兄弟姉妹に対し、同社の相続対策に関する被告銀行の提案の内容について説明し、翌一一日、被告銀行岩本町支店に甲4及び原告甲3の訪問を受け、近藤支店長及び早川課長と共に応対し、同原告らから、前記提案に基づく相続対策について協力と、事業承継対策に詳しい者の紹介について依頼を受けた。甲4及び原告甲3は、同月一六日、藤田から、事業承継対策に詳しい会計事務所として、被告ザイタックの代表者桜庭冨雄の紹介を受け、同社に対して甲金網の相続対策を立案することを委任し、桜庭から、甲金網の株式の評価を下げるため同社の資産を増加させて大企業の認定を受けること、及びその方策として被告銀行から二億円を借り入れることを提案され、被告銀行に対して融資を申し込み、同月三〇日、被告銀行から甲金網に対して二億円が融資された。
(甲一、六一、乙一〇四、戊二二、証人藤田、原告甲3、被告ザイタック代表者)
5 桜庭は、甲4及び原告甲3と相談しながら、相続税対策のため、原告らの保有する甲金網の株式を相続人に事前に譲渡し、本件土地の相続税課税評価額を低下させるなどの方策を立案し、実施する作業を進め、同年一〇月下旬ころ、不動産収支表と題する資料を示し、右土地につき、新たに設立する不動産管理会社に対して借地権を設定した場合の原告らの不動産収入及びこれに課される所得税額等を説明し、相続開始時に相続税を支払う現金が不足する状態であることを指摘した。桜庭は、その後、同年一一月二日、同月一日の国税庁による類似業種比準価額計算に際しての業種目別株価の発表を受け、甲金網の株価計算表を作成し、同社の株式及び本件土地の相続税対策とその効果を同原告に説明し、同月二九日、原告らに対し、右相続税対策の効果を試算したシミュレーション(戊二)を示して内容を説明した。被告ザイタックによる相続税対策のための提案は、同日、原告らから相続人に対する甲金網の株式の譲渡契約、同年一二月一四日、不動産管理会社(甲産業有限会社)の設立、同月二一日、原告らから同社に対して本件建物を譲渡して本件土地に同社のために借地権を設定することにより、実行に移された。
(甲一、一一の一ないし四、六一、乙一〇四、戊二、四ないし七、二二、証人藤田、原告甲3、被告ザイタック代表者)
6 藤田は、同年一〇月下旬、原告甲3に対し、相続税の支払に備えるための変額保険の利用を勧め、その際、桜庭も自己が加入していることを告げ、乙川に対し、再度、原告らに説明するよう依頼した。乙川は、同年一一月一六日ころ、藤田と共に甲金網を訪問し、原告三名に対し、パンフレット及びシミュレーション(同年六月二五日交付済みのもの)を示し、運用実績九パーセントを前提として、銀行借入で変額保険に加入する相続税対策の効果について説明し、原告甲1から、シミュレーションによれば、右運用実績でも、契約締結一四年後に保険給付金額が借入債務額を下回ることについての指摘と九パーセントの運用が達成されるのかについての質問を受け、当時、後記のとおり、被告明治生命の変額保険の運用実績が九パーセントに達しないばかりか、負の実績となっている事実については、全く触れることなく、保険給付金によって納税資金を準備する外、一時払保険料が相続財産として評価され、実際の相続財産価値との差額(含み益)が見込めるため、なお相続税対策の効果はあると説明した。原告三名は、乙川に対し、本件土地を担保に被告銀行から融資を受けて変額保険に加入する意向を示し、その後、変額保険への加入について原告らを含む兄弟間で協議し、被告明治生命により九パーセントの運用は確保できるが、それ以上は疑問があるとして、生命保険業界において最高の実績と資産を誇る被告日本生命に加入することとし、また、主たる取引銀行である富士銀行からも融資を受けることとし、原告甲3は、同銀行神田支店福長に右経緯及び融資を求める意向を伝えた。その後、原告甲3は、福長から、協議の結果、全額を被告銀行が融資し、保険の半分は被告日本生命を利用しても良いこととなったとの連絡を受け、藤田に対し、他の保険会社をも利用する意向を伝えた。
(甲二の一、六一、六三、乙一〇四、丙五、戊二二、証人藤田、同乙川、原告甲1、同甲3、被告ザイタック代表者)
7 乙川は、同年一二月一日、原告ら三家族一二名の健康診査受診の際、原告らの本件変額保険契約一の申込書に署名押印を受け、原告甲3から、一時払養老保険を利用した場合の試算書の作成を求められ、同月七日、同原告の要望を入れた一時払養老保険利用の相続税対策プランを示し、同月一〇日、同原告から、加入一〇年後の具体的効果の資料の作成とともに、同甲1及び同甲2に対しても説明するよう求められ、同月一九日(原告甲1及び同甲3)及び二四日(原告甲2)、シミュレーション(運用利率九パーセント及び融資金利7.6パーセントを前提とし、一次相続発生を一〇年後、二次相続発生を一二年後とした場合の節税効果を計算したもの。甲一四、一五)を示した上、変額保険に加入した場合、一次相続発生時に二億三九九二万円(原告甲1)及び二億二四三九万円(同甲2)、並びに二次相続発生時に七四五二万円(同甲1)及び一億〇一六八万円(同甲2)の相続税対策の効果がそれぞれ見込めると説明した。
(甲一三、一四、一五、六一、丙一の一ないし一二、一の二の一ないし一二、一の三の一ないし一二、五、証人乙川、原告甲3)
8 原告甲3は、右に先立ち、同月七日、福長から紹介を受けた丙山から、パンフレット、設計書及び勧誘資料を示され、乙川から受けたのと同旨の変額保険についての説明を受け、原告ら及び相続人を被保険者とし、保険給付金によって納税資金を準備するとともに、相続財産の評価減を図るための方策を策定するよう依頼し、同月一七日、丙山から、設計書及び節税効果試算表と題する資料(運用利率九パーセント、融資金利8.1パーセント及び地価上昇率五パーセントを前提とし、相続税対策効果を試算したもの。丁一三)を示され、経過年数ごとの節税効果について説明を受け、乙川作成のシミュレーション等の資料を示し、これと同等以上の相続税対策の効果を見込めるプランを策定し、二次相続発生を前提としたシミュレーションを作成するよう求め、丙山から、被告日本生命の運用実績は、明治生命と同等以上である旨告げられ、同月一九日、シミュレーション(原告ら及びその相続人を被保険者とし、保険金額一億五〇〇〇万円とした変額保険への加入、運用利率九パーセント及び融資金利8.1パーセントを前提とし、原告らの子を被保険者とする変額保険を頭金活用年払変額終身保険とした上、一次相続発生を一〇年後、二次相続発生を一二年後とした場合の節税効果を計算したもの。甲四七ないし四九)を示され、変額保険への加入後の相続税額及び資金収支につき説明を受け、一次相続及び二次相続発生を通じて多額の節税効果が見込める上、頭金活用年払変額保険とした場合、保険料の七〇パーセント相当額から保険金額の二パーセント相当額を控除した金額が相続財産評価額となり、評価額を減少させる効果も期待できると説明を受け、加入の意向を示し、健康診査受診の上、前提事実記載のとおり、本件変額保険契約二の締結に至った。
(甲四七ないし四九、六一、丁一、六、七、一三、一七、証人丙山、原告甲3)
9(一) 被告明治生命の運用実績は、同元年当時までは一〇パーセントを上回る状態が継続したこともあったが、同二年三月三一日時点で、同元年一月加入、二月加入及び三月加入の場合、それぞれ7.6パーセント、8.4パーセント及び5.4パーセント、同年九月三〇日時点で、同元年七月加入、八月加入及び九月加入の場合、それぞれマイナス3.8パーセント、マイナス3.7パーセント及びマイナス5.4パーセントであり、このことは、原告らに対する変額保険の勧誘時、乙川においても知っていた (甲六の一及び三、弁論の全趣旨)。
(二) 被告日本生命の運用実績は、同二年九月三〇日時点で、同元年七月加入、八月加入及び九月加入の場合、それぞれマイナス7.9パーセント、マイナス8.0パーセント及びマイナス9.9パーセントであり、このことは、原告らに対する変額保険の勧誘時、丙山においても、知っていた(甲六の三、弁論の全趣旨)。
10 被告明治生命及び同日本生命は、乙川及び丙山において、運用実績九パーセントが常に達成されると説明しておらず、4.5パーセント及び〇パーセントの場合もあると説明しており、その上で原告らが本件各変額保険契約を締結したと主張する。しかしながら、原告らは、被告銀行から年8.1パーセントもの高い利息で融資を受けているのであり、払込保険料の約九〇パーセントが特別勘定として運用される変額保険(公知の事実)においては、融資利率と変額保険の運用利率との間に一〇パーセント以上の差がなくては、単利でも、融資の利息の方が多くなることは計算上明らかであり、特に、利息分までも融資して変額保険契約を締結する場合、複利で融資を受けるのと異ならず、変額保険が契約者にとって経済的にメリットがあるのは、運用利率が融資の利率を常に一〇パーセント以上上回る場合か、又は早期に保険事故が発生する場合に限られる。原告らが、右のような高利により融資を受けてまで変額保険契約を締結したのは、前記認定のとおり、原告らが一〇年後の収支にまで何度も確認し、疑問を呈していることから明らかなように、原告らに早期に保険事故が発生することを想定してのことではなく、順調に推移してきた甲金網の事業(同社が順調に推移してきたことは、同社の資産評価額が高まり、原告らが相続税対策を検討していたこと自体からも、明らかである。)の継続が、原告ら役員についての相続の発生に伴って、困難となることのないように慮ってのことであることは推認に難くない。そのような原告らが、変額保険契約の締結を決意したのは、締結当時はもとより、長期的にも、年8.1パーセントもの高利の融資を受けても、なお、契約の締結に踏み切っても収支が償う程度の運用がされていると考えたからに外ならず、被告明治生命の担当者の説明がそれを裏付ける程のものであったと推認するのが合理的である(勧誘当時、融資利率より低いばかりか、負の実績を示していることを正確に説明されながら、そして、その後の日本経済の見通しについて、短期的な落ち込みであり、長期的には従前同様の好況が臨まれる所以について合理的な理由を付して説明されることのないままでは(本件においては、そのような説明がされたことを窺うことはできない。)、変額保険契約を締結することは愚かなことと言う外なく、そのようなことは誰もしないと言って憚ることはないであろう。)。
三 主位的請求について
1 変額保険契約について
(一) 原告らの主張中、変額保険契約自体の説明が十分でないこと、又はそれが相続税対策として本質的に有効でないかのように主張する部分と理解しうる部分があるが、右は、採用の限りでない。変額保険自体は、前記認定のとおり、主管の行政当局によって認可された商品であり、保険料の大半を投資又は投機に充てるため、いわゆるハイリスク・ハイリターンと言われるように、利用の時期、方法によっては、高い利益を上げうる反面、投資金額を消失する危険もあるものであることは通常の常識を備えた成人であれば容易に理解しうるのであり、これを理解することができなければ、契約を締結しなければ足り、十分に理解することができないままに契約を締結したのであれば、結果は甘受する外ない。要は、販売の方法の問題であり、事実を告げないまま、判断を誤りに導いた結果契約が成立した場合、そのような勧誘をした担当者及びその使用者は、相応の責任を負うべきものである。
(二) 変額保険も、販売開始以来、これを利用して所期の効果を上げた者が少なくなかったことは、変額保険の発売時期と共に、日本経済の好況が訪れ、高株価に裏付けられ、同保険の運用実績が高く、そのために多くの者が契約するに至り、その後の日本経済の低迷に伴う株価の低迷により、変額保険の特別勘定の運用実績も低下するとともに、本件もそうであるように、融資を受けて契約を締結した者が、利息の負担のみ増加し、解約返戻金によっても融資の返済をすることができず、多くの訴訟が提起されていること(公知の事実である。)からも明らかである。
(三) 変額保険は、「保険」という語感とは裏腹に、確実性が薄く、投機性ないし射倖性の高い商品であるものの、これを利用する時期と方法を誤ることがなければ、それ自体、違法の問題を生じるものではない。本質的には、投機性ないし射倖性が高いものである以上、証券取引や商品取引と似たところがあり、保険会社に委託して行うとはいえ、健全な経済感覚を有する者にとって、融資を受けてまでするのが相応しいものではない。もとより、融資を受けてするのも、自己責任に属することであり、他人の容喙すべきことではないが、金融機関として、変額保険契約を締結するための資金について、求められて融資することを拒むかどうかは、銀行の品性に関わる問題にとどまり、融資をしても非難されるべき筋合いはないものの、変額保険契約を締結するために融資を受けることを勧める者があるとすれば、資金面から事業活動を支えることが期待される金融機関とは峻別されるべきであろう。
(四) 以上のとおり、融資を受けて変額保険契約を締結する場合、経済情勢により、危険が増大するが、それも自己責任の範囲内のことであり、同契約を適時に、適切に利用し、利益を得た者がいること(公知の事実である。)や経済情勢の変化を敢えて無視し、変額保険契約自体が違法の存在であるかのように主張するとすれば、専門家としての誇りと責任を捨てるに等しい。
2 被告明治生命
(一) 原告らは、被告明治生命の担当者による勧誘の違法をも主張すると解せられるところ、乙川は、前記認定のとおり、平成二年六月及び一一月、原告らに対する二度にわたる勧誘の際、真実は、同被告における変額保険の運用実績が原告らが受ける融資の利率を下回り、さらには、負の実績であるにもかかわらず、その事実を告げず、九パーセントの運用実績が勧誘当時得られており、将来も得られるように説明して、原告らを誤解に導き、本件変額保険契約一の締結に至らせた。
(二) 乙川の示した勧誘資料等に、変額保険の運用実績が九パーセントの場合だけでなく、4.5及び〇パーセントの場合もありうる旨の記載がされているだけでは、不実の説明を否定する理由にはならず、前記のとおり、融資利率を下回るばかりか、負の実績を示しているときは、乙川において、右事実を告げ、それにもかかわらず、融資を受けて保険契約を締結してもメリットがある所以を説明して勧誘し、その上で契約の締結に導くのでなければ、不実の説明により、契約を締結させたことに帰する。被告明治生命は、その従業員のした行為について、原告らに対する不法行為責任を免れない。
3 被告日本生命
原告らは、被告明治生命との間の本件変額保険契約一の締結の意思をほぼ固めた後、同被告の示した運用実績九パーセントに満足せず、同被告よりも高い運用実績を上げると買い被っていたこともあって、被告日本生命との契約を望み、前記のとおり、富士銀行担当者の紹介を得て、本件変額保険二を締結するに至っている。既に契約を締結する意思を固めた者にとって、事実に即した説明がどれほど聞く耳を持たれるものかに多大の疑問があることは、日常経験に照らして明らかである。しかしながら、原告らは、前記認定のとおり、被告明治生命から受領した勧誘資料を示した上で、同被告以上の運用実績を期待する趣旨を明らかにして変額保険を利用した相続税対策の検討を丙山に依頼しており、それに対し、同人は、被告日本生命が当時負の実績でありながら、なお、被告明治生命よりも高い運用を上げられるかのように説明し、契約を締結させたのであり、被告日本生命は、被告明治生命同様、その従業員の行為について、原告に対する不法行為責任を免れない。
4 被告銀行
前記認定によれば、藤田ら被告銀行担当者らは、原告らに対し、甲金網において相続税対策の必要なこと及びおおよその方法を説明し、同社の株式の取扱い、本件土地及びその他の土地の相続税対策についても助言した上、事業承継に詳しい者として被告ザイタックを紹介し、甲金網の資産を増加させるための二億円の融資手続をし、同被告の助言と同様、相続税の支払資金の不足に備えるため、変額保険契約の締結を勧め、被告明治生命の担当者乙川を紹介し、乙川が原告らに説明する際には同行し、変額保険の保険料の支払のために融資し、融資に対する利息分をも融資する旨を説明し、融資を受けることができることが原告らにおいて変額保険契約を締結する決意を裏で支えたのではないかと推察される。しかしながら、本件において、被告銀行担当者らが右認定の態様で原告らが変額保険契約を締結するのに関係したというだけでは、被告銀行に不法行為責任を負わせる根拠に欠けるという外ない。
5 被告ザイタック
同被告は、前記認定のとおり、甲金網の株式及び本件土地の相続税対策を実施する方策について、原告甲3から委託を受け、その後、同被告の助言に従い、被告銀行からの借入により、甲金網の純資産額の増加、原告らと相続人間の同社の株式の譲渡契約、甲産業有限会社の設立、同社への本件建物の譲渡及び借地権の設定に導いた。被告ザイタックにおいて、原告らが相続税を支払う現金が不足すると指摘したこと、桜庭が変額保険契約を締結していることを告げたことを考慮しても、同被告が不法行為責任を負う理由は見出し難い。
四 損害
1 支払保険料
原告らは、違法な勧誘により、本件各変額保険契約を締結するに至り、支払った保険料と解約返戻金との差額相当額の損害を被った。
被告明治生命 被告日本生命
原告甲1 七一〇六万二一三〇円 四八五九万一四四六円
同甲2 六一八六万一五〇二円 四二四五万二七九四円
同甲3 五六四三万四八四七円 三八九二万二七三四円
2 利息等
(一) 原告らは、右経緯により、本件各変額保険契約を締結し、そのために受けた融資についての利息の支払、融資契約に伴い負担した印紙代、信用保証会社に支払った保証料及び抵当権設定登記費用も(合計額は、左記のとおり。内訳について、別紙1一覧表参照。)、すべて、右不法行為による損害に当たる。
原告甲1 一億四四三八万一六二八円
同甲2 一億二七五四万八七五三円
同甲3 一億一一八九万〇三八六円
(二) 右損害は、両被告のいずれがどれだけ寄与したかは明確でなく、もとより、共同意思の下に与えたものでもなく、各原告の被った損害を両被告が支払を受けた保険料の割合により按分し、その負担を決定することとする。
被告明治生命 被告日本生命
原告甲1 七三四二万九七四六円 七〇九五万一八八二円
同甲2 六四九五万一九〇四円 六二五九万六八四九円
同甲3 五七二一万〇四六七円 五四六七万九九二〇円
3 慰謝料
原告は、慰藉料として各三〇〇万円を請求するが、財産権侵害については金銭賠償によって償われており、特別の事情の認められない本件においては、原告の慰謝料請求は理由がない。
4 原告らの損害総額
以上によれば、原告ら各自の損害中、各被告に請求しうるものは、左記のとおりとなる。
被告明治生命 被告日本生命
原告甲1 一億四四四九万一八七六円 一億一九五四万三三二八円
同甲2 一億二六八一万三四〇六円 一億〇五〇四万九六四三円
同甲3 一億一三六四万五三一四円 九三六〇万二六五四円
5 過失相殺
原告らは、甲金網を経営して事業活動を営む者であり、相応の判断力を有すると認められ、本件各変額保険契約の締結に当たっても、運用実績の見込みについて、乙川の説明に直ちには納得せず、幾度か疑問を呈し、また、被告明治生命の示す運用実績に満足せず、原告らの希望により、被告日本生命と保険契約を締結するに至っているのであり、保険契約の締結について不法行為を認めうるにしても、損害の発生については、過失があることは容易に推察され、殊に、原告らの発案で契約を締結することとなった被告日本生命との間では、担当者による虚偽の説明の責任は免れないにしても、被告明治生命と同列には扱い難いところがある。しかしながら、本件においては、被告らは、過失相殺の主張をしない旨を明確にしており、これを考慮する余地はない。
五 争点2(被告生保らの善管注意義務違反)
変額保険は、前記認定のとおり、特別勘定の運用実績に応じて、保険給付金額が変動する仕組みの生命保険であり、保険契約者において、基本保険金額の最低保証を除き、株価や為替の変動等による投資リスクを負うのであり、被告生保らが、特別勘定の運用につき、融資金利を上回る運用利率を確保すべき注意義務を負うとは認められず、その余の点を考慮するまでもなく、原告の予備的主張は失当である。
六 よって、原告らの主位的請求中、被告明治生命に対し、一億四四四九万一八七六円(原告甲1)、一億二六八一万三四〇六円(同甲2)及び一億一三六四万五三一四円(同甲3)、被告日本生命に対し、一億一九五四万三三二八円(原告甲1)、一億〇五〇四万九六四三円(同甲2)及び九三六〇万二六五四円(同甲3)、並びに不法行為後の日である平成六年九月二七日(訴状送達の日の翌日)から右支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告生保らに対するその余の主位的請求及び予備的請求並びに被告銀行及び被告ザイタックに対する請求は、いずれも理由がないから、失当として、いずれも棄却すべきである。
(裁判長裁判官江見弘武 裁判官柴﨑哲夫 裁判官高島義行)
別紙別紙1一覧表<省略>
別紙保険目録一・二<省略>
別紙物件目録<省略>